年齢を重ねるごとに、階段の上り下りや歩き始めに膝の痛みを感じることはありませんか?
朝のちょっとした動作や、大好きな散歩でさえも億劫になってしまう…そんな経験をされている方も少なくないでしょう。
実は、変形性膝関節症は、2014年のフランスの統計では成人の約半数が過体重もしくは肥満と報告されており、体重増加に伴い膝への負担が増すため、罹患率が増加傾向にある疾患です。
この記事では、変形性膝関節症の歩き始めの痛みがなぜ起こるのか、そのメカニズムを3つのポイントに絞って解説します。
軟骨のすり減りや関節液の変化、滑膜の炎症といった、複雑に絡み合うメカニズムを理解することで、不安を軽減し、適切な対処法を見つけるための一助としてください。
目次
歩き始めの痛みの原因を解説!変形性膝関節症のメカニズム3選

膝の痛み、特に歩き始めや立ち上がり時に感じる痛みは、日常生活に大きな支障をきたします。
朝、布団から出るのも一苦労、好きな散歩も楽しめない、買い物に行くのも億劫になってしまう…。年齢を重ねるにつれて、このような悩みを抱える方が増えてきます。
実は、変形性膝関節症は軟骨、関節液、滑膜といった複数の組織が複雑に絡み合い進行する疾患です。
単に軟骨がすり減るだけでなく、炎症や痛みに繋がるメカニズムが存在します。
今回は、変形性膝関節症の歩き始めの痛みがなぜ起こるのか、そのメカニズムを3つのポイントに絞ってわかりやすく解説します。
正しく理解することで、不安を少しでも和らげ、適切な対処法を見つけるための一助となれば幸いです。
①軟骨のすり減り
健康な膝関節では、骨と骨の間に軟骨というクッションが存在し、スムーズな動きを可能にしています。この軟骨は、衝撃を吸収するだけでなく、骨同士が直接ぶつからないように保護する役割も担っています。
しかし、加齢や肥満、激しい運動、遺伝などの要因によって、この軟骨が徐々にすり減ってしまうことがあります。
軟骨がすり減ると、骨と骨が直接接触しやすくなり、炎症や痛みが発生します。
特に朝起きたときの歩き始めや立ち上がり時など、膝に負担がかかる動作で痛みを感じやすいのは、安静にしている間に膝関節内に炎症物質が溜まり、動き出すことで刺激されるためです。
これは、まるでドアの蝶番が錆び付いて動きが悪くなるようなものです。スムーズに動かなくなると、ギーギーと異音がしたり、動きが鈍くなったりしますよね。軟骨がすり減った膝関節も同様に、動きがスムーズでなくなり、痛みや炎症を引き起こすのです。

寝起きの準備体操で改善
朝の歩き始めの痛みに悩む患者さんには、ベッドの上で行う「準備体操」が効果的だと感じています。これは布団の中で膝を軽く曲げ伸ばしする運動と、足首の回旋運動を組み合わせた簡単なものです。この体操は関節液を循環させ、軟骨の栄養状態を改善することで、朝の第一歩の痛みを和らげます。
「布団から出る前に30秒間この体操をするだけで、トイレまでの歩きが全然違います」という患者さんの声は、小さな習慣の積み重ねが大きな効果をもたらすことを教えてくれます。ぜひお試しくださいね。
②関節液の変化
関節液は、関節の動きを滑らかにし、軟骨への栄養供給や衝撃吸収の役割を担っています。いわば、関節にとっての潤滑油のようなものです。
変形性膝関節症では、この関節液の質や量が変化してしまいます。関節液の粘度が低下したり、量が減少したりすると、軟骨への栄養供給が滞り、さらに軟骨のすり減りを促進させてしまいます。
これは、車がオイル不足でエンジンの調子が悪くなるのと似ています。十分なオイルがなければ、エンジンがスムーズに動かず、故障の原因にもなります。
また、関節液には炎症を抑える成分も含まれていますが、変形性膝関節症では炎症が慢性化し、関節液の炎症抑制効果が弱まってしまうこともあります。結果として、関節内の炎症が悪化し、痛みが強くなってしまうのです。
③滑膜の炎症
滑膜は関節包の内側を覆う薄い膜で、関節液を産生する役割を担っています。
変形性膝関節症では、軟骨のすり減りや関節液の変化に伴い、滑膜にも炎症が起こることがあります。
この滑膜の炎症は、変形性膝関節症の痛みを悪化させる大きな要因の一つです。
炎症を起こした滑膜は腫れ上がり、関節内に炎症性サイトカインと呼ばれる物質を放出します。炎症性サイトカインは、まるで体内の小さな火種のように、炎症をさらに広げ、軟骨や骨を破壊する作用があります。
変形性膝関節症は軟骨の損傷だけでなく、滑膜、軟骨下骨、膝蓋下脂肪体といった周囲の組織にも影響を及ぼす疾患です。
炎症性サイトカインは痛みを誘発する物質でもあるため、滑膜の炎症によって痛みがさらに増強されるのです。
また、最近の研究では、脂肪組織から分泌されるアディポサイトカインと呼ばれる物質も、膝関節の炎症や軟骨の分解に関与していることが示唆されています。つまり、肥満も変形性膝関節症の進行に関係している可能性があるということです。
変形性膝関節症の診断と区別

変形性膝関節症の診断には、レントゲン検査が不可欠です。
初期症状として膝の腫れや正座困難が現れ、特に長時間の安静後に歩き始める際に大きく痛みを感じます。
この病気はO脚の方に多く、筋力低下も症状を悪化させる要因となります。また、半月板損傷を伴うことも少なくないため、適切な検査で変形の程度を正確に診断することが、効果的な対処法への第一歩です。
▼変形性膝関節症と半月板損傷の違いと関係性について、以下でも解説しています。
変形性膝関節症の歩き始めの痛みへの対処法4選

変形性膝関節症の歩き始めの痛み、本当につらいですよね。
特に朝、布団から出て最初の数歩が痛む、椅子から立ち上がろうとした瞬間にズキッとくる、といった経験をされている方も多いのではないでしょうか。
その原因は、安静にしている間に膝関節に炎症物質が溜まり、動き出すことでその刺激が痛みとして出現すると考えられています。まるで、錆びついた扉を開けるように、最初の動きが最もつらいのです。
このつらい痛みを少しでも和らげ、快適な日常生活を送るため、今回は4つの対処法を、現場の医師の視点から、より具体的に解説します。
①薬物療法(鎮痛剤、ヒアルロン酸注射など)
薬物療法は、痛みや炎症を抑えるための基本的な治療法です。
内服薬としては、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:痛みや炎症を引き起こすプロスタグランジンという物質の生成を抑える薬)など、患者さんの状態に合わせて処方されます。
NSAIDsは即効性がありますが、胃腸障害などの副作用が生じる可能性もあるため、医師の指示に従って服用することが重要です。
また、ヒアルロン酸注射も有効な治療法です。ヒアルロン酸は関節液の主成分で、関節の動きを滑らかにする潤滑油のような役割を担っています。
変形性膝関節症では、このヒアルロン酸が減少したり質が悪くなったりすることで痛みが生じます。注射によってヒアルロン酸を補うことで、関節の動きがスムーズになり、痛みを軽減する効果が期待できます。
▼変形性膝関節症の注射による治療について、以下でも解説しています。
②運動療法(ストレッチ、筋力トレーニングなど)
運動療法は、変形性膝関節症の進行を抑制し、痛みを長期的に軽減するために非常に重要です。
特に、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や裏側の筋肉(ハムストリングス)を鍛えることで、膝関節を安定させ、負担を軽減することができます。
高齢者の方や痛みが強い方は、無理のない範囲で、椅子に座ってできるストレッチや軽い筋力トレーニングから始めましょう。水中ウォーキングなども膝への負担が少ないためおすすめです。
▼変形性膝関節症におすすめの水中ウォーキングについて、以下でもご紹介しています。
重要なのは、継続して行うことです。運動を続けることで、膝周りの筋肉が強化され、関節の安定性が向上し、痛みの軽減につながります。
③装具療法(サポーター、杖など)
装具療法は、膝関節への負担を軽減し、痛みを和らげる効果があります。
サポーターは膝関節を支え、安定させることで、痛みを軽減し歩行を楽にします。杖の使用も、体重を分散させることで膝への負担を軽減するのに役立ちます。
適切な装具の種類や使用方法については、医師や理学療法士に相談することをお勧めします。自分の症状に合った装具を使うことで、より効果的に痛みを軽減し、日常生活を快適に送ることができます。
▼変形性膝関節症での杖の選び方や使い方を、以下でもご紹介しています。
④手術療法(人工関節置換術など)
保存療法で効果がない場合や、痛みが強い場合、日常生活に大きな支障が出ている場合は、手術療法が検討されます。人工関節置換術は、損傷した関節面を取り除き、人工関節に置き換える手術です。
手術は最終手段ですが、痛みが劇的に改善し、生活の質を向上させることができる可能性があります。
患者さんの状態や年齢、活動レベルなどを考慮し、医師とよく相談した上で決定されます。
▼変形性膝関節症の高齢者の手術について、以下でも解説しています。
変形性膝関節症は、平均寿命の増加と世界人口の高齢化に伴い、疾患負担が増加する可能性が高い疾患です。また、肥満も変形性膝関節症の危険因子となるため、体重管理も重要です。2014年のフランスの統計では、18歳以上の成人のうち32.3%が過体重、15%が肥満と報告されています。
肥満は膝関節への負担を増大させるため、適切な体重管理は変形性膝関節症の予防と治療に不可欠です。適切な治療法を選択し、日常生活の質を維持・向上させるために、医師との相談を大切にしてください。
▼変形性膝関節症の体重管理方法について、以下もご参考ください。
まとめ

歩き始めの膝の痛みに悩んでいる方に向けて、変形性膝関節症の痛みのメカニズムと対処法を解説しました。
軟骨のすり減り、関節液の変化、滑膜の炎症、これらが複雑に絡み合い、特に歩き始めのような動作で痛みを引き起こします。
でも、諦めないでください。適切な対処法で痛みを和らげ、快適な生活を取り戻すことは可能です。薬物療法、運動療法、装具療法、そして手術療法など、様々な選択肢があります。
大切なのは、あなたの状態に合った方法を見つけること。まずは、専門家である医師に相談してみましょう。一緒に最適な方法を見つけ、笑顔で歩ける毎日を目指しましょう。
参考文献
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- Richter M, Trzeciak T, Owecki M, Pucher A, Kaczmarczyk J. “The role of adipocytokines in the pathogenesis of knee joint osteoarthritis.” International orthopaedics 39, no. 6 (2015): 1211-7.

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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