膝の痛み、特に立ち上がりや着座時の苦痛に悩まされていませんか?
椅子選びひとつで、変形性膝関節症の痛みは大きく変わります。
この記事では、膝への負担を最小限に抑え、快適な日常生活を送るための椅子の選び方を、5つのポイントに絞って医師監修のもと詳しく解説します。
適切な椅子の高さや背もたれの角度、座面の奥行き、そしてクッションやフットレストの活用法まで、具体的な方法を分かりやすく説明します。
変形性膝関節症の痛みを少しでも楽にするために、毎日使う椅子だからこそ、正しい選び方を知り、快適な毎日を送りましょう。
目次
変形性膝関節症に最適な椅子の選び方5つのポイント

変形性膝関節症になると、立ち上がる、座るといった何気ない動作でも膝に負担がかかり、痛みが悪化することがあります。適切な椅子を選ぶことで、これらの動作による膝への負担を軽減し、日常生活を快適に過ごすことができます。
椅子の選び方のポイントは、高さ、背もたれ、座面の奥行き、クッションやフットレストの活用、そして椅子タイプです。これらの5つのポイントを踏まえることで、ご自身の身体に合った、まるでオーダーメイドのような椅子を見つけることができるでしょう。
膝の負担を軽減する椅子の高さとは?
適切な椅子の高さは、膝の負担軽減に大きく関わってきます。
椅子に座ったときに、膝の角度が90度から100度になるのが理想的です。この角度は、膝関節への負担が最も少なく、スムーズな立ち上がり動作を可能にする角度です。
具体的には、床から座面までの高さが、身長の約25%程度(身長160cmであれば40cmほどの高さ)が良いでしょう。低すぎると膝が深く曲がり、軟骨への負担が増加し、炎症を悪化させる可能性があります。さらに、立ち上がりも難しくなり、膝への負担はさらに増大します。
逆に、高すぎると足が床に届かず、不安定になり、膝関節だけでなく、股関節や腰にも負担がかかってしまいます。
痛みを和らげる背もたれの角度
背もたれの角度も、変形性膝関節症にとって重要なポイントです。背もたれは、腰を支え、良い姿勢を保つのに役立ちます。
100度から110度程度に傾斜した背もたれは、体重を分散させ、腰への負担を軽減し、結果として膝への負担も軽減します。加えて、立ち上がり動作をサポートする効果もあります。
背もたれの角度が調整できる椅子であれば、ご自身の体型や好みに合わせて最適な角度に調整できます。
座面の奥行きと膝の痛みの関係
座面の奥行きも、膝の痛みに影響します。座面の奥行きが深すぎると、太ももの裏側が座面に圧迫され、血行が悪くなり、膝の痛みが増す可能性があります。
また、長時間座っていると、痺れや冷えを感じることもあります。逆に、浅すぎると体が安定せず、姿勢が悪くなる原因になります。
適切な奥行きは、座った時に膝の裏と座面の先端の間に、こぶし1つから2つ分程度の隙間がある状態です。
クッションやフットレストの効果的な活用法
クッションやフットレストを併用することで、さらに座り心地を良くし、膝への負担を軽減することができます。
クッションは、お尻や腰への負担を軽減するだけでなく、姿勢を安定させる効果もあります。硬すぎず柔らかすぎない、適度な硬さのクッションを選びましょう。
フットレストは、足が床に届かない場合に、足を支え、姿勢を安定させる効果があります。足がぶらぶらしていると、血行が悪くなり、むくみや冷えの原因にもなりますので、フットレストの使用を検討してみましょう。

足置き(フットレスト)の効果
長時間座る際に膝の痛みが増す患者さんには、小さな足置き(フットレスト)が非常に効果的だと感じています。これにより膝が軽度に曲がった状態を保ち、関節への圧力が分散されるのです。
特にデスクワークが多い患者さんには、「足の下に10〜15cmの台を置く」という簡単な工夫を勧めています。「会社の椅子は変えられませんでしたが、段ボール箱で作った簡易フットレストのおかげで、長時間のデスクワークが楽になりました」という患者さんの工夫は、環境に合わせた対応の重要性を教えてくれます。
素材・機能で選ぶおすすめの椅子タイプ3選(座椅子、リクライニングチェアなど)
様々なタイプの椅子がありますが、変形性膝関節症の方におすすめの椅子を3つご紹介します。
1つ目は、立ち上がりやすい座椅子です。座面が高い座椅子や、ひじ掛け付きの座椅子は、立ち上がり動作をサポートしてくれます。
2つ目は、リクライニングチェアです。背もたれの角度を調整できるため、自分に合った姿勢で座ることができます。
3つ目は、ダイニングチェアです。安定性が高く、立ち上がりやすい高さのものを選ぶと良いでしょう。
また、椅子を選ぶ際には、通気性の良い素材や、お手入れしやすい素材を選ぶことも大切です。
変形性膝関節症と椅子のQ&A
膝の痛みは、日常生活の質を大きく下げてしまうものです。特に変形性膝関節症になると、立ち上がる、座るといった動作でさえも苦痛を伴うことがあります。
適切な椅子を選ぶことは、膝への負担を軽減し、快適な生活を送るために非常に重要です。
このセクションでは、変形性膝関節症と椅子に関するよくある疑問にお答えします。
よくある誤解とその正しい理解
「硬い椅子に座った方が良い」「ソファは良くない」「正座椅子が良い」など、変形性膝関節症と椅子に関する情報は様々です。しかし、これらは必ずしも正しいとは限りません。
例えば、「硬い椅子が良い」という考え方は、必ずしも正しくありません。硬すぎる椅子は、膝への負担を増加させる可能性があります。逆に、柔らかすぎる椅子は、姿勢が悪くなり、膝関節への負担が増加する可能性があります。大切なのは、適度な硬さの椅子を選ぶことです。
また、「正座椅子が良い」という説も、誤解です。正座は膝を深く曲げるため、変形性膝関節症の方にとっては負担が大きすぎます。正座椅子ではなく、膝の角度が90〜100度になるような椅子を選ぶ方が、膝への負担を軽減できます。
購入場所と価格相場
変形性膝関節症に適した椅子は、家具店、ホームセンター、インターネット通販などで購入できます。
価格相場は、数千円から数万円までと幅広く、機能性や素材によって異なります。ご自身の予算に合わせて選びましょう。
レンタルサービスはある?
椅子を購入する前に、実際に試してみたいという方もいらっしゃるでしょう。
一部の福祉用具レンタル業者では、椅子のレンタルサービスを提供しています。
レンタルを利用すれば、自分に合った椅子かどうかをじっくり試すことができます。購入前に一度試してみるのも良いかもしれません。
椅子以外の痛みの緩和方法(手術、薬、運動療法など)
椅子以外にも、変形性膝関節症の痛みを和らげる方法はいくつかあります。
薬物療法では、痛みや炎症を抑える薬が処方されます。
運動療法では、太ももの筋肉を鍛えることで膝の負担を軽減します。
また、ヒアルロン酸注射や、手術を行わない最新治療の再生医療、手術療法として人工膝関節置換術、高脛骨骨切り術(HTO)などの選択肢もあります。
高脛骨骨切り術(HTO)は、脛骨(すねの骨)の上部を切って膝にかかる負担を軽減する手術法の一つです。
人工膝関節置換術は、傷んだ膝関節を取り除き、人工関節に置き換える手術です。ロボット支援型人工膝関節置換術(RA-TKA)とナビゲーション支援型人工膝関節置換術(NA-TKA)といった術式があり、両手術法は同等の精度を示しますが、それぞれ利点と欠点があるため、医師とよく相談して治療法を選択することが大切です。
まとめ

変形性膝関節症の痛みを軽減するには、適切な椅子選びが重要です。椅子を選ぶ際のポイントは、高さ、背もたれ、座面の奥行き、クッションやフットレストの活用、そして椅子タイプです。
椅子に座った時に膝の角度が90~100度になる高さ、100~110度に傾斜した背もたれ、膝裏と座面の先端にこぶし1~2つ分の隙間ができる奥行きが理想です。クッションやフットレストを併用すると、さらに快適に座ることができます。
自分に合った椅子を選ぶことで、膝への負担を軽減し、快適な日常生活を送ることができます。様々なタイプの椅子があるので、今回ご紹介したポイントを参考に、ご自身の身体に合った椅子を見つけてみてくださいね。
参考文献
- Gupta A, Maffulli N. “Undenatured type II collagen for knee osteoarthritis.” Annals of medicine 57, no. 1 (2025): 2493306.
- Melinte MA, Simionescu L, Tăbăcar M, Blănaru V, Melinte RM. “Comparison between robotic-assisted and navigation-assisted total knee arthroplasty shows comparable outcomes: A systematic review and meta-analysis.” Journal of orthopaedics 68, no. (2025): 96-104.
- Nguyen TA, Hogden A, Khanna A, Kuah D. “Efficacy of adipose-derived stem cells and stromal vascular fraction for pain relief in Kellgren-Lawrence grade II-III knee osteoarthritis: A systematic review (2019-2024).” Journal of orthopaedics 70, no. (2025): 95-106.
- Hu Q, Jiang J, Li Q, Lu S, Xie J. “A systematic review and meta-analysis examining alterations in medial meniscus extrusion and clinical outcomes following high tibial osteotomy.” Journal of orthopaedics 68, no. (2025): 121-130.

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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