変形性膝関節症になると、歩くのもおっくうになりがちです。実は、杖を正しく使うことで、膝への負担を軽減し、活動的な毎日を取り戻せる可能性があります。
この記事では、変形性膝関節症に悩む方に向けて、専門医監修のもと、杖の選び方と使い方のポイントを詳しく解説します。杖の種類や長さの選び方、グリップの素材、便利な機能、そして安全な使い方まで、網羅的にご紹介します。
150万人以上が罹患すると言われる変形性膝関節症。杖を上手に活用して、痛みを和らげ、快適な生活を送りませんか?
目次
膝が楽になる!変形性膝関節症の杖の選び方4つのポイント

特に変形性膝関節症になると、歩くのもおっくうになり、階段の上り下りも一苦労という方も多いのではないでしょうか。私も医師として、患者さんのつらい気持ちに寄り添い、少しでも楽に生活できるようお手伝いしたいと思っています。
変形性膝関節症は、膝関節のクッションの役割を果たす軟骨がすり減ってしまう病気です。軟骨がすり減ると、骨と骨が直接ぶつかり合うようになり、炎症や痛みが生じます。進行すると、膝の変形や水が溜まることもあります。
杖は、膝への負担を軽減し、痛みを和らげ、変形性膝関節症の方が活動的に過ごすための大きな助けとなります。適切な杖を選ぶことで、日常生活がぐっと楽になるはずです。
ここでは、杖の種類や長さの選び方、グリップの素材、便利な機能をご紹介します。
①杖の種類(T字杖、多点杖など)
杖の種類は大きく分けてT字杖、多点杖、ロフストランドクラッチなどがあります。それぞれ特徴が異なるので、ご自身の状態や生活スタイルに合わせて選ぶことが大切です。
T字杖は、文字通りT字の形をした杖です。握りやすく、比較的軽く、価格も手頃なものが多く、初めて杖を使う方にもおすすめです。安定感は多点杖に劣りますが、操作性は高く、小回りが利きます。
多点杖は、杖の先端が3点または4点に分かれており、接地面が広く、安定感抜群です。バランスが取りにくい方、より安定性を求める方におすすめです。ただし、T字杖に比べると重く、小回りが利きにくいというデメリットもあります。
ロフストランドクラッチは、前腕で支えるタイプの杖です。手首や肘に負担をかけたくない方、体重をしっかり支えたい方に向いています。
杖を選ぶ際には、実際に手に取って、握り心地や長さ、重さなどを確認することをおすすめします。
②杖の長さの選び方(身長との関係)
杖の長さは、とても重要です。長すぎると猫背になったり、肩に負担がかかったりします。短すぎると、腰をかがめてしまい、かえって膝への負担が増加してしまいます。
適切な長さは、靴を履いた状態でまっすぐに立った時、手首の少し上の骨の出っ張りの高さに杖のグリップがくるくらいです。杖を持った時に、肘が軽く曲がる程度(約15~30度)が良いでしょう。お店で実際に杖を持って、長さを確かめてみるのがおすすめです。
③グリップの素材(木製、樹脂製、ゴム製など)
グリップの素材も、杖選びの重要なポイントです。木製は温かみがあり、滑りにくいのが特徴ですが、少し重いのがデメリットです。樹脂製は軽量で耐久性が高いですが、冬場は冷たく感じるかもしれません。
ゴム製は手にフィットしやすく、握りやすいのがメリットですが、劣化しやすい場合があります。
それぞれの素材のメリット・デメリットを理解し、季節や手の状態なども考慮して、自分に合った素材を選びましょう。最近では、手に負担がかかりにくい形状記憶フォームを使ったグリップなども販売されています。
④杖の機能(折りたたみ式、高さ調節機能など)
杖には、便利な機能が備わっているものもあります。
折りたたみ式は、コンパクトに収納できるので、バスや電車での移動、旅行や外出時に便利です。
高さ調節機能付きは、身長や状況に合わせて長さを変えられるので、より快適に使うことができます。例えば、家族で共有する場合にも便利です。
最近では、杖の先端にLEDライトが付いているものもあり、夜道も安全に歩けます。杖を使う場所や頻度、ご自身の好みを考慮して、必要な機能を選びましょう。自分に合った機能を選び、杖をもっと便利に活用しましょう。
杖を使うことで、膝への負担を軽減し、痛みを和らげ、活動的に過ごすことができるようになります。
膝が楽になる!変形性膝関節症の杖の使い方5つのポイント

杖を使うことに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれません。「歳をとったみたいで…」と感じる方もいるでしょう。しかし、正しく杖を使えば、膝の負担を軽くし、歩くのが楽になります。
杖は、あなたの歩くことをサポートしてくれる頼もしいパートナーです。使い方のポイントを押さえて杖と上手につきあい、快適な毎日を送りましょう。
①杖の持ち方(痛みや弱さのある足と反対側の手で持つ)
杖は、痛みや弱さのある足と反対側の手で持ちます。右足に問題がある方は左手で、左足に問題がある方は右手で杖を持ちます。これは、杖を使うことで体のバランスを保ちやすくするためです。
杖を持つときは、ギュッと握りしめず、軽く握り、手首に負担がかからないようにしましょう。卵を優しく包むようなイメージです。杖の持ち手が、ちょうど手首のシワのあたりにくるように調整すると、より自然に杖を使うことができます。
②杖を使った歩き方(平地、階段の上り下り)
平地を歩くときは、杖を少し前に出して地面につけ、体重を杖に軽くかけながら前に進みます。杖と反対側の足を同時に前に出し、続いて杖と同じ側の足を前に出します。
階段を上るときは、杖を先に一段上にあげ、健康な方の足を上げます。次に、杖を持っている側と同じ方の足を一段上にあげます。「杖→良い足→杖側の足」と覚えると良いでしょう。
階段を下りるときは、杖を先に一段下に下ろし、痛みのある方の足を一段下に下ろします。次に、杖を持っている側と同じ方の足を一段下に下ろします。「杖→悪い足→杖側の足」です。
③杖を使う上での注意点(転倒防止、適切な体重のかけ方)
杖を使う上で最も大切なのは、安全に使うことです。転倒は骨折などの大きなケガにつながる危険性があります。
転倒を防ぐためには、杖の先端についているゴム(石突きといいます)が滑りにくい素材でできているか、定期的に確認しましょう。石突きは消耗品なので、すり減ってきたら交換が必要です。
最近では、凍った路面でも滑りにくい石突きも販売されているので、冬場に外出することが多い方は検討してみると良いでしょう。
また、杖に体重をかけすぎると、バランスを崩しやすくなります。杖に全体重をかけるのではなく、あくまで補助的に使うように心がけてください。自分の体重の2~3割程度を杖で支えるイメージです。
杖を使うときは、周りの状況にも気を配り、段差や障害物がないか、注意しながら歩きましょう。特に、雨で濡れたマンホールの上は大変滑りやすいので注意が必要です。
④杖のメンテナンス方法(清掃、保管)
杖は、定期的に清掃し、清潔に保ちましょう。杖のグリップ部分は、汗や汚れが付きやすいので、水で濡らした布をよく絞って拭き取るか、薄めた中性洗剤で優しく洗いましょう。洗った後は、乾いた布で水分をしっかり拭き取ってください。
杖の本体部分は、乾いた布で拭き、汚れを落とします。金属部分のサビを防ぐためにも、水分は残さないようにしましょう。
保管するときは、直射日光や高温多湿の場所を避け、風通しの良い場所に保管しましょう。
⑤杖を使用する際のよくある疑問(靴の種類、服装など)
杖を使う際に、靴の種類や服装を気にする方もいらっしゃるかもしれません。杖を使うこと自体は決して恥ずかしいことではありません。堂々と、そして快適に杖を使いましょう。
靴は、歩きやすく、滑りにくいものを選びましょう。ヒールが高すぎる靴や、底が薄い靴は避け、スニーカーやウォーキングシューズなど、安定感のある靴がおすすめです。
服装は、動きやすい服装を選びましょう。杖を使う際に、スカートやコートの裾が地面に引っかからないように注意しましょう。

杖使用の心理的ハードル
膝の状態からすでに杖が必要な段階でも、「まだ杖は使いたくない」と躊躇する患者さんが多いことに気づきました。特に中年層ではこの傾向が強く、見た目や周囲の目を気にされます。私はそんな患者さんに「杖は膝を守るための投資」という考え方を伝え、おしゃれなデザインの杖を紹介することもあります。
「これなら抵抗なく使えます」と前向きに捉えていただけると、早期からの適切なサポートが可能になり、膝の保護にもつながります。
自分らしい、大切なパートナーとなる杖が見つかりますように。
最近の研究では、マニュアルセラピー(マッサージや関節モビライゼーションなど、手技を用いた治療法のことです)と杖の使用を組み合わせることで、膝の痛みが軽減し、機能が改善される可能性が示唆されています。杖を使うことで膝への負担が軽減されると、運動療法にも前向きに取り組めるようになるでしょう。
▼変形性膝関節症に効くマッサージとその効果について、以下で解説しています。併せてお読みください。
まとめ

杖を使うことで、膝の痛みを軽減し、より快適に歩くことができるようになります。自分に合った杖を選ぶことは、とても大切です。杖の種類や長さ、グリップの素材、そして杖の機能など、様々な要素を考慮して、最適な一本を選びましょう。
杖を使う際に大切なのは、安全に使うことです。正しい持ち方や歩き方をマスターし、転倒を防ぎましょう。また、杖のメンテナンスも忘れずに行い、清潔に保つようにしましょう。
杖を使うことに抵抗がある方もいるかもしれませんが、杖はあなたの歩行をサポートしてくれる心強い味方です。適切な杖を選び、正しく使うことで、膝の負担を軽減し、活動的な毎日を送ることができるでしょう。さあ、杖とともに、快適な歩行を手に入れましょう。
参考文献
- Duong V, Oo WM, Ding C, Culvenor AG, Hunter DJ. Evaluation and Treatment of Knee Pain: A Review. JAMA 330, no. 16 (2023): 1568-1580.
- Tsokanos A, Livieratou E, Billis E, Tsekoura M, Tatsios P, Tsepis E, Fousekis K. The Efficacy of Manual Therapy in Patients with Knee Osteoarthritis: A Systematic Review. Medicina (Kaunas, Lithuania) 57, no. 7 (2021).

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
戻る