階段の上り下りや立ち上がり時に感じる膝の痛みや違和感、もしかしたら変形性膝関節症の初期症状かもしれません。
実は、初期段階では自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行してしまうことも多い病気なのです。
75歳以上の方の約3人に1人が変形性膝関節症を抱えているという報告もあり、決して他人事ではありません。
この記事では、変形性膝関節症の進行段階を初期から後期まで詳しく解説し、さらに進行を遅らせるための具体的な方法を紹介します。
将来の不安を少しでも減らし、快適な日常生活を送るためのヒントが満載です。ぜひ最後まで読んで、ご自身の膝の健康を見つめ直してみませんか?
目次
変形性膝関節症の進行段階と期間:何年でどのくらい悪化する?

変形性膝関節症は、放置すると徐々に進行し、日常生活に支障をきたす可能性があります。そのため、早期発見・早期治療が重要です。
この記事では、変形性膝関節症がどのように進行していくのか、段階ごとにご説明します。進行のスピードは人それぞれですが、この記事を参考に、ご自身の状態を理解し、不安を少しでも減らし、今後の生活に役立てていただければ幸いです。
初期段階:自覚症状が少ない軽度の軟骨損傷
初期段階では、軟骨が少しすり減り始めていますが、自覚症状はほとんどありません。階段の上り下りや立ち上がり時など、特定の動作でたまに違和感や軽い痛みを感じる程度の場合が多いです。
「膝が重だるい」「何となくおかしい」といった漠然とした違和感を感じる方もいらっしゃいます。レントゲン写真を撮影しても、骨の変化は明らかではありません。
この段階は、ご自身で異常に気づきにくいため、発見が遅れるケースも少なくありません。しかし、初期段階で適切なケアを始めれば、進行を遅らせることができる可能性が非常に高いです。少しでも気になることがあれば、早めに医師に相談しましょう。
中期段階:痛みや腫れ、可動域制限などが出現
中期段階になると、軟骨のすり減りが進行し、痛みや腫れ、膝の曲げ伸ばしがしにくくなるなどの症状が現れます。正座や階段の上り下りがつらくなり、日常生活にも影響が出始める時期です。
具体的には、立ち上がり時や歩き始めに痛みを感じたり、長時間歩いたり立っていたりすると痛みが強くなるといった症状がみられます。
また、膝に関節液が溜まり、腫れて熱を持つこともあります。さらに、膝の曲げ伸ばしの範囲が狭くなり、正座やしゃがみ込みが難しくなることもあります。
レントゲン写真では、骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨のとげのようなものや、関節の隙間が狭くなっているのが確認できます。骨棘は、骨が過剰に作られることで生じ、周りの組織を刺激して痛みを引き起こします。関節の隙間が狭くなるのは、軟骨がすり減ることで、骨と骨の間のスペースが減少するためです。
後期段階:強い痛みや変形、日常生活への支障
後期段階では、軟骨がほとんどすり減ってしまい、強い痛みや変形が生じます。安静時にも痛みを感じるようになり、歩行が困難になり、日常生活に大きな支障が出ます。膝の関節がO脚のように変形することもあります。
この段階になると、痛みのため、家事や買い物などの日常生活動作が困難になるだけでなく、睡眠にも影響が出る場合があります。
また、膝の変形が目立つようになり、外見上の変化も気になるようになる方もいらっしゃいます。
レントゲン写真では、関節の隙間がほとんどなくなっているのがわかります。75歳以上の方の約3人に1人が変形性膝関節症を抱えているという報告もあります。

初期症状から重度化までの期間は何年くらいか?
軽度の痛みや違和感といった初期症状から、日常生活に支障をきたす重度の症状に至るまでの期間は、典型的には5〜10年かかることが多いと感じています。ただし、これは適切な治療やセルフケアを行った場合であり、何も対策をしなければもっと早く進行することもあります。
私は初診の患者さんには「今から適切なケアをすれば10年以上現状維持も可能ですが、放置すれば2〜3年で悪化することもあります」と伝えるようにしています。「先生の警告を真剣に受け止めて生活改善をしたおかげで、7年経った今も初期の症状のままです」という声をよく聞きます。
変形性膝関節症の進行を遅らせる3つの方法と再生医療

膝の痛み、つらいですよね。私も長年、患者さんの膝の痛みと向き合ってきました。変形性膝関節症は、放っておくと徐々に悪化し、日常生活にも大きな支障をきたす可能性のある病気です。しかし、適切なケアをすれば、進行を遅らせ、痛みを軽くすることは十分可能です。
この記事では、変形性膝関節症の進行を遅らせるための3つの方法と、近年注目されている再生医療について、高齢の患者さんにもわかりやすくご説明します。
ご自身の膝の状態に合った方法を見つけるためにも、ぜひ最後まで読んでみてください。
薬物療法:痛みや炎症を抑える
薬は、痛みや炎症を抑え、あなたが快適に日常生活を送れるようにサポートする大切な方法です。飲む薬、塗る薬、注射など、様々な種類があり、あなたの症状や状況に合わせて使い分けられます。
例えば、痛みが強い時期には、よく「痛み止め」として使われるロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されることが多いです。これは、痛みや炎症を引き起こす原因物質の生成を抑えることで効果を発揮します。しかし、胃腸が弱い方には、副作用として胃腸障害が起こる可能性もゼロではありません。その場合は、胃への負担が少ないアセトアミノフェンなどが処方されることもあります。このように、一人ひとりの体質に合わせた薬選びが大切です。
また、痛む部分に直接塗ることで効果を発揮する外用薬もあります。炎症を抑える成分や、温めたり冷やしたりする成分が含まれたものなど、様々な種類があります。
▼変形性膝関節症に効果的な薬について、以下でもご紹介しています。
さらに、痛みが強い場合には、ヒアルロン酸注射やステロイド注射を行うこともあります。ヒアルロン酸は、膝関節の潤滑油のような役割を果たす成分です。ステロイドは、強力な抗炎症作用を持つ薬です。
リハビリテーション:筋力強化や関節可動域の改善
リハビリテーションは、変形性膝関節症の進行を遅らせる上で、とても重要な役割を果たします。
具体的には、太ももの筋肉を鍛える運動や、膝の関節の曲げ伸ばしをよくするストレッチなどを行います。
椅子に座って膝を伸ばしたり、タオルを使って膝を曲げたりするだけでも効果があります。太ももの筋肉、特に前側の筋肉(大腿四頭筋:だいたいしとうきん)は、膝関節を支える重要な役割を担っています。この筋肉が弱くなると、膝への負担が増し、症状が悪化しやすくなります。適度な運動で筋肉を鍛えることで、膝関節を安定させ、痛みを軽減できるのです。
また、関節の曲げ伸ばしの範囲(可動域:かどういき)が狭くなると、日常生活での動作が制限されてしまい、さらに症状が悪化してしまう可能性があります。ストレッチなどで関節の柔軟性を保つことで、スムーズな動きを維持することができます。
▼変形性膝関節症のリハビリテーションについて、以下もご参考ください。
ヒアルロン酸注射:関節の動きを滑らかにする
ヒアルロン酸注射は、関節の動きを滑らかにし、痛みを和らげる効果が期待できます。
注射は基本的に、通常1週間に1回、計5回行います。効果の持続期間は個人差がありますが、数ヶ月から半年程度続くことが多いです。
再生医療:PRP療法、幹細胞治療などの種類と効果
近年、変形性膝関節症の治療において、再生医療が注目されています。
再生医療とは、傷ついた組織を再生させることを目的とした治療法です。変形性膝関節症の再生医療には、PRP療法や幹細胞治療など、様々な種類があります。
PRP療法は、患者さん自身の血液から血小板という成分を多く含む液体(PRP:多血小板血漿)を抽出し、膝関節に注射する治療法です。PRPには、組織の修復を促進する「成長因子」と呼ばれる成分が豊富に含まれており、炎症の抑制が期待できます。
幹細胞治療は、脂肪組織などから採取した幹細胞を培養し、膝関節に注射する治療法です。幹細胞は、様々な細胞に変化する能力を持つ細胞であり、軟骨の再生を促進する効果が期待できます。
▼変形性膝関節症に対する再生医療について、以下でも詳しく解説しています。
生活習慣の改善:適正体重の維持、運動、膝への負担軽減
生活習慣の改善は、変形性膝関節症の進行を遅らせる上で、とても重要です。
「年だから仕方ない」と諦めないでください。適切な生活習慣を心がけることで、進行を遅らせ、痛みを軽減することが期待できます。
体重が増えると、膝への負担が大きくなり、症状が悪化しやすくなります。適正体重を維持するために、バランスの取れた食事を心がけ、食べ過ぎに注意しましょう。適度な運動も大切です。
ウォーキングや水中ウォーキングなど、膝への負担が少ない運動は、筋力強化や関節の柔軟性を維持するのに効果的です。無理のない範囲で、継続して行うことが大切です。
また、正座や和式トイレの使用、階段の上り下りなど、膝に負担がかかる動作はできるだけ避けましょう。洋式トイレを使用したり、杖や歩行器を使うことも効果的です。
椅子から立ち上がる時など、何気ない動作で膝に負担がかかっていることもあります。日常生活の中で、膝への負担を意識的に減らす工夫をしてみましょう。
まとめ

変形性膝関節症の進行は、初期、中期、後期に分けられ、数年から数十年と個人差があります。加齢や肥満、遺伝などが進行に影響します。
進行を遅らせるには、薬物療法、リハビリテーション、ヒアルロン酸注射の他、生活習慣の改善も大切です。バランスの良い食事、適度な運動、膝への負担軽減を意識しましょう。
再生医療という選択肢もあります。痛みや違和感を感じたら、早めに医療機関に相談し、適切な治療とケアを始めましょう。
参考文献
- Katz JN, Arant KR, Loeser RF. Diagnosis and Treatment of Hip and Knee Osteoarthritis: A Review. JAMA 325, no. 6 (2021): 568-578.
- Aljehani MS, Christensen JC, Snyder-Mackler L, Crenshaw J, Brown A, Zeni JA Jr. Knee biomechanics and contralateral knee osteoarthritis progression after total knee arthroplasty. Gait & posture 91, no. (2022): 266-275.

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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