膝の痛み、我慢していませんか?
特に階段の上り下りや正座がつらい、最近O脚気味になってきた…心当たりがある方は、変形性膝関節症の危険信号かもしれません。
高齢者の多くが悩まされているこの病気、実は放置すると、痛みが激化するだけでなく、歩行困難、さらには寝たきりになるリスクも高まるのです。
軟骨のすり減りが進行し、日常生活に支障をきたす前に、適切な対処が必要です。
この記事では、変形性膝関節症の放置によるリスクと、効果的な治療法・予防ケアを整形外科医がわかりやすく解説します。
あなたの未来の健康を守るために、ぜひ読み進めてください。
目次
変形性膝関節症を放っておくとどうなる?4つのリスク

高齢者の多くが悩まされている変形性膝関節症。
これは、膝関節のクッションの役割を果たす軟骨がすり減り、骨と骨が直接ぶつかり合うことで痛みや炎症を引き起こす病気です。適切な治療を行わないと日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。早期発見・早期治療が重要です。
ここでは、変形性膝関節症を放っておくとどうなるのか、そのリスクについて、4つに分けて解説しています。
軟骨のすり減りが進行し、痛みが激化する
初期の変形性膝関節症では、立ち上がりや歩き始めなどに軽い痛みを感じることがあります。これは、関節軟骨がすり減り始め、骨同士がぶつかり始めることが原因です。
椅子から立ち上がるときや、歩き始めの一歩目に「ズキッ」とした痛みを感じることが多く、安静にしていると治まることが多いです。
この段階では、痛みは一時的なもので、休息をとれば治まることが多いです。「少し休めば治るから…」と放置してしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実はこの時、関節の中では徐々に軟骨がすり減っているのです。そして、この段階で適切な治療を受けずに放置すると、軟骨のすり減りが進行し、痛みが激化していきます。
進行すると、安静時にも痛みを感じるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。
夜寝ているときにも痛みで目が覚めてしまうこともあります。炎症が続くと、関節を包む膜(滑膜)にも炎症が及び、滑膜炎を引き起こします。滑膜炎は、さらに痛みを増強させる要因となります。
最近の研究では、変形性膝関節症ではこの滑膜の炎症が痛みや関節の破壊の進行に大きく関わっていることがわかってきています。
関節の変形が進行し、歩行が困難になる
変形性膝関節症が進行すると、関節の変形が目に見えるようになってきます。多くの場合、O脚に変形していきます。これは、膝関節にかかる負担が不均等になることで、骨が変形していくことが原因です。
健康な状態では、膝関節の内側と外側で均等に体重がかかっていますが、軟骨がすり減ってくると、そのバランスが崩れ、より負担のかかる部分の骨が変形してしまうのです。
関節の変形が進むと、膝の曲げ伸ばしが困難になり、歩行に大きな支障をきたすようになります。杖や歩行器が必要になる場合もあります。正座や階段の上り下りも難しくなり、日常生活の動作が制限されてしまいます。
変形性股関節症などの合併症を引き起こす
変形性膝関節症を放置すると、膝関節だけでなく、他の関節にも悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば、膝をかばって歩くことで、股関節に負担がかかり、変形性股関節症を引き起こすことがあります。また、腰痛や脊柱管狭窄症(脊髄の通り道が狭くなる病気)などの合併症を引き起こすリスクも高まります。
複数の関節に痛みがあると、日常生活の活動性が低下し、生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。
寝たきりになるリスクが高まる
変形性膝関節症が進行すると、歩行が困難になり、外出の機会が減ってしまいます。「買い物に行きたいけれど、膝が痛くて…」と、外出を控えるようになる方も少なくありません。
運動不足になると、筋力が低下し、さらに歩行が困難になるという悪循環に陥ります。また、痛みがひどくなると、日常生活の動作も制限され、家事や入浴なども困難になります。
「お風呂に入りたいけれど、膝が痛くて億劫に…」と、入浴の回数を減らしてしまう方もいます。このような状態が続くと、徐々に活動量が減り、最終的には寝たきりになるリスクが高まります。寝たきりになると、要介護状態になり、介護者の負担も大きくなってしまいます。

痛みの変化パターン
変形性膝関節症の自然経過では、痛みのパターンが徐々に変化していきます。
初期段階では「動き始めの痛み」(朝起きた時や座った後に立ち上がる時など)が中心ですが、放置すると「持続痛」(常に痛む状態)へと進行することが多いのです。特に印象的だったのは、60代の女性患者さん。初診時は「朝起きた時だけ痛い」と話していましたが、治療せずに3年後に再来院した時には「一日中痛くて、夜も眠れない」と訴えていました。私はこのような変化を「痛みの質的転換」と呼んでおり、この転換点を超えると治療がより難しくなることを患者さんに説明するようにしています。
早期の段階での適切な介入が、この痛みの質的転換を遅らせる鍵だと実感しています。
変形性膝関節症の治療法と予防ケア3選

変形性膝関節症の治療は、患者さん一人ひとりの痛みの程度や生活スタイル、そしてご希望に合わせて、いくつかの方法を組み合わせて行います。
大きく分けて、薬を使った治療、運動や装具を使った治療、そして手術による治療の3つの柱があります。どの治療法がご自身に合っているのか、一緒に考えていきましょう。
薬物療法(痛み止め、ヒアルロン酸注射など)
薬物療法は、痛みや炎症を抑え、少しでも快適に日常生活を送れるようにすることを目的としています。
内服薬としては、痛みや炎症を抑える飲み薬(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬など)や、痛み止め(アセトアミノフェンなど)があります。
注射薬としては、ヒアルロン酸注射やステロイド注射などがあります。症状や痛みの程度に合わせて、これらの薬を使い分けたり、組み合わせたりします。
例えば、痛みが強い時期には、即効性のある痛み止めや炎症を抑える効果の高い注射薬を使用し、痛みが落ち着いてきたら、内服薬に切り替えるなど、患者さんの状態に合わせて柔軟に対応します。
飲み薬は、市販薬もありますが、自己判断で服用するのではなく、必ず医師の指示に従って服用することが大切です。副作用についてもきちんと理解し、安全に使用するようにしましょう。例えば、NSAIDsは胃腸障害や腎機能障害などの副作用が現れる可能性があります。
ヒアルロン酸は、私たちの体の関節液にもともと含まれている成分で、関節の動きを滑らかにする役割があります。変形性膝関節症では、このヒアルロン酸が減少しているため、注射によってヒアルロン酸を補うことで、関節の動きをスムーズにし、痛みを和らげます。
ステロイド注射は、炎症を抑える効果が非常に高い注射薬です。しかし、頻回に注射すると軟骨が弱くなる可能性があるので、使用回数や頻度については医師とよく相談することが重要です。
▼変形性膝関節症に対する注射治療の特徴や効果については、以下でも詳しく解説しています。
理学療法(運動療法、装具療法など)
理学療法は、手術をせずに痛みを軽減し、関節の機能を改善、そして今後の生活の質を向上させることを目指します。具体的には、運動療法と装具療法があります。
運動療法では、ストレッチや筋力トレーニングを行います。ストレッチは、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や裏側の筋肉(ハムストリングス)の柔軟性を高め、膝の動きをスムーズにします。筋力トレーニングは、太ももの筋肉を鍛えることで、膝関節を支える力を強めます。
スクワットやレッグプレスなどが効果的ですが、膝への負担が大きいため、痛みがある場合は無理に行う必要はありません。水中ウォーキングやプールでの水中運動など、膝への負担が少ない運動もおすすめです。
装具療法では、サポーターやインソール、杖などを使用します。サポーターは膝関節を固定することで、痛みを軽減し、安定させます。インソールは、足底のアーチをサポートすることで、膝への負担を軽減します。杖は、体重を支えることで、膝への負担を減らし、歩行を楽にします。
▼変形性膝関節症に効果的な筋トレに方法ついて、併せてご参考にされてくださいね。
適切な運動は、変形性膝関節症の予防や進行抑制にもつながります。無理のない範囲で、毎日続けることが大切です。
2021年に発表された研究では、闇雲に高負荷の筋トレを行うのではなく、ご自身の状態に合わせた適切な運動療法を選択することが重要であると示されています。この研究では、高強度の筋力トレーニングと低強度の筋力トレーニング、そして日常生活を送るだけのグループ(注意コントロール群)を比較しました。その結果、18ヶ月後、高強度の筋力トレーニングを行ったグループは、他の2つのグループと比べて、膝の痛みや膝関節にかかる力の軽減に大きな差は見られませんでした。
手術療法(人工関節置換術など)
保存療法で効果がない場合や、痛みが強い場合は、手術療法が検討されます。代表的な手術として、人工関節置換術があります。
人工関節置換術は、傷んだ膝関節を取り除き、人工関節に置き換える手術です。痛みを大幅に軽減し、日常生活の動作を改善することができます。人工関節には、全部を置き換える全置換術と、一部分だけを置き換える単顆置換術があります。どの手術方法が適しているかは、患者さんの状態によって異なります。
その他の手術療法として、関節鏡手術や高位脛骨骨切り術などがあります。関節鏡手術は、関節内に小さなカメラを入れて、関節内の状態を確認しながら、軟骨の修復や炎症を起こしている組織の切除などを行います。高位脛骨骨切り術は、脛骨(すねの骨)を切って、膝にかかる負担を軽減する手術で、比較的若い患者さんに適しています。
人工関節の耐久性は高く、15~20年程度は機能するとされています.しかし、人工物である以上、永遠に使えるわけではありません。また、手術には感染症などのリスクも伴います。術後のリハビリテーションも重要です。医師から説明を受け、メリットとデメリットを理解した上で、手術を受けるかどうかを判断しましょう。
▼変形性膝関節症の手術をご検討されている方は、以下もご参考にされてください。
まとめ

変形性膝関節症を放っておくと、痛みが強くなり、関節の変形も進行します。日常生活に支障が出て、最悪の場合、寝たきりになるリスクも高まります。
でも、大丈夫。変形性膝関節症は、適切な治療とケアで進行を遅らせたり、痛みを和らげたりすることができます。薬物療法、理学療法、手術療法など、様々な治療法がありますので、ご自身の状態に合った方法を医師と相談しながら見つけていきましょう。
大切なのは早期発見、早期治療です。少しでも膝に違和感を感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。快適な日常生活を送るためにも、まずは専門家に相談し、適切なアドバイスを受けてくださいね。
参考文献
- Messier SP, Mihalko SL, Beavers DP, Nicklas BJ, DeVita P, Carr JJ, Hunter DJ, Lyles M, Guermazi A, Bennell KL, Loeser RF. Effect of High-Intensity Strength Training on Knee Pain and Knee Joint Compressive Forces Among Adults With Knee Osteoarthritis: The START Randomized Clinical Trial. JAMA 325, no. 7 (2021): 646-657.
- Mathiessen A, Conaghan PG. Synovitis in osteoarthritis: current understanding with therapeutic implications. Arthritis research & therapy 19, no. 1 (2017): 18.

-情報提供医師
松本 和樹 Kazuki Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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