膝の痛み、年齢とともに深刻になっていませんか?好きな散歩や旅行も、つらい痛みで諦めていませんか?
日本では高齢化が進むにつれ、変形性膝関節症に悩む方が増加し、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。
この記事では、高齢者の変形性膝関節症における手術の種類、メリット・デメリット、そして手術以外の選択肢まで、分かりやすく解説します。
人生における大きな決断となる手術。正しい情報を得て、後悔のない選択をするためにも、ぜひこの記事を読み進めてみてください。
目次
高齢者の変形性膝関節症手術:種類とメリット・デメリット

膝の痛み、つらいですよね。年齢を重ねると、変形性膝関節症で悩まされる方が本当に多くなります。その上手術となると、不安も大きいかと思います。
この記事では、高齢者の変形性膝関節症の手術の種類やメリット・デメリット、そして手術以外の選択肢について、一緒に考えていきましょう。
私自身も高齢の患者さんと日々接する中で、手術を選択するかどうかは人生における大きな決断だと感じています。だからこそ、正しい情報を得て、ご自身に合った選択をしていただきたいのです。
人工関節置換術の種類と特徴(THA・TKAなど)
変形性膝関節症の手術で最もよく行われるのが人工関節置換術です。これは、傷んでしまった膝関節を人工関節に取り替える手術です。人工関節は、耐久性があり、体に優しい素材で作られています。
人工関節置換術には、主に2つの種類があります。
- TKA(人工膝関節置換術): 膝関節だけを人工関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の患者さんに最も多く行われています。
- THA(人工股関節置換術): 股関節を人工関節に置き換える手術です。変形性股関節症の患者さんに多く行われますが、変形性膝関節症が進行し、股関節にも影響が出ている場合に行われることもあります。近年、人工膝関節置換術において、患者さんの膝の状態に合わせたアライメント(骨の配列)の調整が重要視されています。従来は、すべての方に同じように人工関節を設置していましたが、現在では、一人ひとりの膝の形や骨の変形具合、靭帯の状態などを精密に検査し、最も適したアライメントを決定する「個別化アライメント」という考え方が主流になりつつあります。
人工関節置換術のメリット(痛みの軽減、生活の質の向上など)
人工関節置換術の最大のメリットは、痛みが軽減されることです。長年苦しんできた痛みが和らぎ、歩行が楽になることで、日常生活の質が大きく向上します。
以前は辛かった買い物や家事も楽になり、旅行や趣味などにも再び取り組めるようになるかもしれません。寝たきりになるのを防ぐ効果も期待できます。
人工関節置換術のデメリット(合併症リスク、人工関節の寿命など)
人工関節置換術はメリットが多い一方で、デメリットも存在します。高齢者の場合、手術後に別の病気が起こるリスク、つまり合併症のリスクが高まります。
例えば、血管の中に血のかたまりができる血栓症や感染症、肺炎などが挙げられます。
また、人工関節には寿命があり、15~20年程度で交換が必要になることもあります。交換手術は初回手術よりも複雑で、リスクも高まります。
手術後にはリハビリテーションも必要で、入院期間は2週間から4週間程度かかる場合もあります。退院後も3ヶ月程度は家族のサポートが必要になるでしょう。
人工関節置換術を受けた方のうち、以前は約20%の方が何らかの不満を感じていたと言われていましたが、近年の研究では約10%程度にまで減少しているという報告もあります。手術の技術向上や、術後のリハビリテーションの進歩が貢献していると考えられます。不満の理由としては、合併症、術後の痛み、手術への期待とのずれなどが挙げられます。
手術以外の治療法(薬物療法、理学療法、ヒアルロン酸注射など)
手術以外にも、変形性膝関節症の治療法はいくつかあります。
薬物療法では、痛みや炎症を抑える薬を服用します。理学療法では、ストレッチや筋力トレーニングで膝周りの筋肉を強化し、関節への負担を軽減します。ヒアルロン酸注射は、関節の動きを滑らかにするヒアルロン酸を膝関節に注射する治療法です。
また、近年では再生医療という新しい選択肢も登場しています。再生医療は、患者さん自身の血液や細胞を利用して、傷ついた組織の修復を促す治療法です。高齢者の方でも受けることができ、手術に比べてリスクが低いのが特徴です。
▼変形性膝関節症の手術以外の治療法について、以下で詳しく解説しています。
どの治療法が適切かは、患者さんの状態によって異なります。医師とよく相談し、ご自身の状態に合った治療法を選択することが大切です。

手術適応の年齢限界について考え直す
私が臨床経験で最も考え方が変わったのは、高齢者の膝関節手術における「年齢制限」についてです。かつては「80歳以上は手術リスクが高い」という考え方が一般的でしたが、実際には暦年齢よりも「生物学的年齢」(体の実際の状態)のほうがはるかに重要だと実感しています。
85歳の女性患者さんは複数の医療機関で「年齢的に手術は難しい」と言われていましたが、全身状態が良好だったため当院で人工膝関節置換術を行い、術後の経過も順調でした。この方は手術後「もっと早く受ければよかった」と話され、それまでの数年間の痛みによる生活制限が無駄だったと残念がっておられました。
私はいつも「年齢だけで判断せず、その人の活動性や体力、認知機能、生活への意欲などを総合的に評価することが大切」と医師たちと話しています。高齢者こそ、残された人生の質を高めるために積極的な治療選択肢を提供すべきだと考えています。
高齢者の変形性膝関節症手術:リスクと合併症への対策

膝の痛み、つらいですよね。特に年齢を重ねると、変形性膝関節症の手術に踏み切るべきかとても迷われると思います。手術にはメリットだけでなく、リスクや合併症も存在します。高齢者の場合、若い方とは体の状態も違いますので、より慎重に考える必要があります。
ここでは、高齢者の方が変形性膝関節症の手術を受ける際に知っておくべきリスクと合併症への対策について、わかりやすく解説します。私自身も高齢の患者さんと日々接する中で、手術は人生における大きな決断だと感じています。だからこそ、正しい情報を得て、ご自身に合った選択をしていただきたいのです。
高齢者特有の手術リスク(心疾患、糖尿病などの合併症の影響)
高齢の方の場合、持病をお持ちの方も多くいらっしゃいます。例えば、心臓病や糖尿病、高血圧などです。これらの持病があると、手術のリスクが高まる可能性があります。
糖尿病があると、傷の治りが遅くなったり、感染症にかかりやすくなったりします。これは、血液中の糖分が高い状態が続くと、血管が傷つきやすくなり、免疫の働きも弱ってしまうためです。
心臓病があると、手術中に心臓に負担がかかり、心不全などを起こすリスクがあります。麻酔にも影響が出やすいため、術前の検査や管理がより重要になります。
手術を受ける前に、かかりつけの医師としっかり相談し、持病のコントロールを万全にしておくことが大切です。
術後合併症の種類と予防策(感染症、血栓症、肺炎など)
手術後には、合併症が起こる可能性があります。合併症は、手術が原因で起こる予期せぬ病気のことです。高齢者の場合、免疫力が低下しているため、合併症のリスクは高くなります。
例えば、手術の傷口から細菌が入り込み、感染症を起こすことがあります。また、手術後は安静にする時間が長くなるため、足の静脈に血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が肺に移動すると、肺塞栓症という命に関わる病気になってしまうこともあります。さらに、免疫力の低下や安静状態によって、肺炎のリスクも高まります。
合併症予防:これらの合併症を予防するために、清潔を保つこと、足を動かす運動をすること、深呼吸をすることが大切です。
感染症予防:感染症予防には、手術前後の抗生物質の投与や、手術室の清潔な環境の維持が不可欠です。
血栓症予防には、弾性ストッキングの着用や、足首を動かす運動、抗凝固薬の使用などが有効です。肺炎予防には、呼吸訓練や体位変換、十分な水分摂取が重要です。
最近の研究では、人工膝関節置換術後の患者の不満は平均で10%程度という報告があります。合併症がなければ、さらに7.3%まで下がるとされています。
リハビリテーションの内容と重要性
手術後は、リハビリテーションが非常に重要になります。
リハビリテーションは、手術によって低下した体の機能を回復させるための訓練です。高齢者の場合、筋力や体力が低下していることが多いため、リハビリテーションに時間がかかることもあります。
リハビリテーションの内容は、患者さんの状態に合わせて、理学療法士が作成します。主に、膝の曲げ伸ばし運動や筋力トレーニング、歩行訓練などを行います。リハビリテーションは、痛みを軽減し、歩行能力を改善するためにとても大切です。焦らず、ゆっくりとリハビリテーションを進めていくことが大切です。
変形性膝関節症の手術費用と保険適用範囲
手術費用は、手術の種類や入院期間、病院によって異なります。健康保険が適用されるため、費用の一部を自己負担することになります。高額療養費制度を利用すれば、自己負担額を抑えることができます。
▼変形性膝関節症の手術費用について、詳しくはこちらでも解説しています。
セカンドオピニオンの重要性と取得方法
手術を受けるかどうか迷っている場合は、セカンドオピニオンを受けることをおすすめします。
セカンドオピニオンとは、現在診てもらっている医師とは別の医師に意見を求めることです。セカンドオピニオンを受けることで、手術以外の治療法の選択肢や、手術のリスクやメリットについて、より多くの情報を得ることができます。
まとめ

この記事では、高齢者の変形性膝関節症手術における種類、メリット・デメリット、そしてリスクと合併症への対策について解説しました。
手術は痛みの軽減や生活の質の向上といった大きなメリットがある一方で、合併症や人工関節の寿命といったデメリットも存在します。高齢者の場合、持病や体力低下の影響で、合併症のリスクが高まる可能性があるため、手術を選択する際には医師との相談が不可欠です。
手術以外の選択肢として、薬物療法、理学療法、ヒアルロン酸注射、再生医療などもあります。どの治療法が最適かは、個々の状態によって異なるため、医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選び、より良い生活を送れるようにしましょう。
参考文献
- DeFrance MJ, Scuderi GR. “Are 20% of Patients Actually Dissatisfied Following Total Knee Arthroplasty? A Systematic Review of the Literature.” The Journal of arthroplasty 38, no. 3 (2023): 594-599.
- Gunaratne R, Pratt DN, Banda J, Fick DP, Khan RJK, Robertson BW. “Patient Dissatisfaction Following Total Knee Arthroplasty: A Systematic Review of the Literature.” The Journal of arthroplasty 32, no. 12 (2017): 3854-3860.
- Karasavvidis T, Pagan Moldenhauer CA, Haddad FS, Hirschmann MT, Pagnano MW, Vigdorchik JM. “Current Concepts in Alignment in Total Knee Arthroplasty.” The Journal of arthroplasty 38, no. 7 Suppl 2 (2023): S29-S37.

-情報提供医師
松本 和樹 Kazuki Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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