加齢とともに増加する変形性膝関節症、人工関節置換術しかないと思っていませんか?
実は、自分の骨を残せる「骨切り術」という選択肢もあるのです。
この記事では、骨切り術のメリット・デメリット、費用面まで整形外科医が徹底解説!
自分の骨を残せる、可動域が広い、スポーツ復帰も期待できる…など、骨切り術の驚くべきメリットとは?
そして、知っておくべきリスクや費用、術後のリハビリテーションについても詳しくご紹介します。
人工関節置換術以外の選択肢を探している方、より活動的な生活を送りたい方、必見の情報です。
変形性膝関節症における骨切り術:4つのメリット・デメリットと費用

膝の痛み、つらいですよね。特に、変形性膝関節症と診断されると、手術が必要になるかもしれないと不安に駆られる方もいらっしゃると思います。
加齢とともに増加するこの病気は、軟骨のすり減りや変形によるもので、初期は立ち上がりや歩き始めに痛みを感じ、進行すると安静時にも痛みが続くようになります。
この記事では、人工関節置換術以外の選択肢として、変形性膝関節症の治療法の一つである骨切り術について、メリット・デメリット、そして費用面も踏まえて詳しく解説していきます。
ご自身の治療の選択肢を広げるため、ぜひ最後までお読みください。
メリット1:自分の骨を残せる
骨切り術の最大のメリットは、何と言ってもご自身の骨を残せることです。
人工関節置換術のように、ご自身の関節を人工物に置き換えるのではなく、骨の形を調整することで痛みを軽減し、膝の機能を改善します。
人工関節には耐用年数があるため、比較的若い患者さんでは将来的な再手術のリスクを考慮する必要があります。
骨切り術は、できる限りご自身の関節を温存したい方、将来的な人工関節置換術の可能性を残しておきたい方にとって大きなメリットとなります。
メリット2:人工関節に比べて可動域が広い
骨切り術は、人工関節に比べて可動域が広く保たれる傾向があります。これは、ご自身の関節を残しているため、より自然な動きができるからです。
正座やスポーツなど、膝を深く曲げる動作も比較的スムーズに行える可能性が高まります。
内側開放楔状高位脛骨骨切り術(MOWHTO)を受けた患者さんの研究では、術後の膝踝関節線角度(KAJA)が9.6°を超えると、膝関節線傾斜(KJLO)が増加し、関節軟骨に過剰な力が加わる可能性があることが示唆されています。
KAJAは膝関節と足関節の角度を表す指標で、KJLOは膝関節の傾斜を表す指標です。
つまり、骨切り術によって膝関節の角度を適切に調整することで、関節への負担を軽減し、可動域を確保できる可能性があるということです。
メリット3:スポーツ活動への早期復帰が可能
骨切り術後、適切なリハビリテーションを行うことで、スポーツ活動への早期復帰も期待できます。
もちろん、スポーツの種類や強度、術後の回復状況、年齢などによって個人差はありますが、人工関節置換術に比べて、より活動的な生活を送れる可能性があります。
メリット4:人工関節置換術への移行も可能
骨切り術を受けた後、もし症状が進行した場合でも、人工関節置換術への移行が可能です。
骨切り術を受けたことで、将来的な人工関節置換術の選択肢がなくなるわけではありません。
デメリット1:術後の痛みや腫れ
骨切り術は、骨を切る手術である以上、術後の痛みや腫れは避けられません。
痛みや腫れの程度には個人差がありますが、適切な鎮痛剤の使用やアイシング、リハビリテーションなどでコントロールしていきます。
デメリット2:合併症のリスク(感染症、神経麻痺など)
骨切り術には、他の手術と同様に、感染症や神経麻痺、血栓症などの合併症のリスクが少なからず存在します。
これらの合併症は発生率は低いものの、ゼロではありません。医師はリスクを最小限に抑えるよう最大限努めますが、万が一合併症が発生した場合は適切な処置が必要になります。
デメリット3:リハビリテーション期間の長さ
骨切り術後は、関節機能の回復、筋力強化などを目的とした一定期間のリハビリテーションが必要です。
リハビリテーション期間は、術式や個人の回復状況、年齢などによって異なりますが、数ヶ月かかる場合もあります。
日常生活への復帰に向けて、医師や理学療法士の指導のもと、計画的にリハビリテーションを進めていくことが重要です。
高齢者の場合、合併症や骨癒合の遅延などのリスクも考慮し、より慎重な術後管理が必要となるでしょう。
デメリット4:費用負担
骨切り術は健康保険が適用されます。しかし、高額療養費制度を利用しても、ある程度の自己負担額が発生する可能性があります。費用の詳細は、医療機関にご確認ください。
骨切り術の種類と適応、術後の経過

膝の痛みは、日常生活に大きな支障をきたす悩ましい症状です。特に、変形性膝関節症と診断されると、手術が必要になるかもしれないという不安に襲われる方も少なくありません。
この記事では、変形性膝関節症の治療法の一つである骨切り術について、種類、適応、術後の経過、そして人工関節置換術との比較などを、高齢者の皆様にも分かりやすく解説します。
高位脛骨骨切り術(HTO)とは?
高位脛骨骨切り術(HTO)は、脛骨(すねの骨)の上部を切って骨の形を変えることで、膝関節への負担を軽減する手術です。
変形性膝関節症では、O脚変形によって膝の内側に負担が集中することが多く、HTOはこの負担を軽減する効果的な方法です。
HTOの一種である内側開放楔状高位脛骨骨切り術(MOWHTO)では、脛骨を楔状に切り開き、内側に広げることで、膝関節の軸を矯正します。この手術では、膝関節と足関節の角度を表す指標である膝踝関節線角度(KAJA)が重要になります。KAJAが大きすぎると、関節軟骨への負担が増加し、痛みや機能障害を引き起こす可能性があります。
研究によると、MOWHTO後のKAJAが9.6°を超えると、膝関節の傾斜が増加し、関節軟骨に過剰な力が加わる可能性があることが示唆されています。そのため、術前や術中のKAJAの評価は非常に重要です。
その他の骨切り術の種類
高位脛骨骨切り術以外にも、遠位大腿骨骨切り術(DFO)などの骨切り術があります。
DFOは、大腿骨(太ももの骨)の下部を切って骨の形を変える手術で、主にX脚変形の改善に用いられます。
どの骨切り術が適しているかは、変形の状態や患者さんの状態、年齢、活動レベルなどを総合的に判断して決定します。
高齢者の場合は、骨の質や合併症のリスクも考慮する必要があります。

年齢と骨切り術の成功率
一般的に骨切り術は若い患者さん(60歳未満)に適していると言われますが、私の臨床経験では年齢よりも「膝の状態」と「全身の活動性」の方が重要だと感じています。
実際に65歳を超える活動的な患者さんで、膝の変形が片側の内側に限局している場合、素晴らしい結果が得られるケースをいくつも経験しています。
「年だから人工関節しかない」と諦めていた患者さんが「自分の関節を残せて本当に良かった」と喜ばれる姿を見ると、画一的な年齢制限ではなく個別評価の大切さを実感します。
▼変形性膝関節症の高齢者の手術について、以下でも解説しています。
骨切り術が適応となる変形性膝関節症の進行段階
骨切り術は、一般的に変形性膝関節症の初期から中期に適応となります。
具体的には、痛みはあるものの、日常生活に支障がない程度の比較的軽度の変形性膝関節症の患者さんに適しています。
進行した変形性膝関節症では、骨切り術の効果が得られない場合があり、人工関節置換術が選択されることが多いです。
しかし、高齢者の場合は、人工関節の耐久性や手術のリスクを考慮し、骨切り術を選択肢の一つとして検討する場合もあります。
骨切り術と人工関節置換術の比較
骨切り術と人工関節置換術は、どちらも変形性膝関節症の治療法ですが、それぞれメリットとデメリットがあります。
骨切り術のメリットは、自分の骨を残せること、可動域が広いこと、スポーツ活動への早期復帰が期待できることなどです。
一方、デメリットは、術後の痛みや腫れ、合併症のリスク、リハビリテーション期間の長さなどです。
人工関節置換術のメリットは、耐久性が高いこと、痛みが軽減しやすいことなどですが、デメリットは、人工関節の耐用年数があること、可動域が制限される場合があることなどです。
どちらの手術が適しているかは、患者さんの年齢、活動レベル、変形の程度、健康状態などを考慮して、医師とよく相談して決定します。
高齢者の場合は、手術のリスクや合併症、リハビリテーションの負担なども考慮する必要があります。
術後のリハビリテーションと日常生活の注意点
骨切り術後は、リハビリテーションが非常に重要です。
リハビリテーションは、術後の痛みや腫れを軽減し、膝の機能を回復させるために不可欠です。
術後早期から、医師や理学療法士の指導のもと、適切な運動を行うことが大切です。日常生活では、無理な動作を避け、徐々に活動レベルを上げていくようにしましょう。
▼変形性膝関節症の手術後の生活について、以下でも解説しています。
高齢者の場合は、リハビリテーションのペースや内容を個々の状態に合わせて調整する必要があります。
最新の骨切り術と生物学的製剤併用の可能性
近年、骨切り術の技術は進歩しており、ナビゲーションシステムやロボット支援手術など、より正確で低侵襲な手術が可能になっています。
また、骨切り術と並行して、生物学的製剤を併用する治療法も研究されています。生物学的製剤は、炎症を抑え、軟骨の再生を促進する効果が期待されています。
高齢者の場合、これらの新しい治療法の適用については、慎重に検討する必要があります。
骨切り術を受ける病院・医師の選び方
骨切り術を受ける病院・医師を選ぶ際には、手術の実績や経験、設備などを確認することが大切です。
また、医師とのコミュニケーションも重要です。
高齢者の場合は、手術のリスクや合併症、リハビリテーションの体制なども考慮して、病院を選ぶ必要があります。
骨切り術の費用と保険適用について
骨切り術は、健康保険が適用されます。費用の詳細は、病院によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。高額療養費制度を利用できる場合もあります。
高齢者の場合は、医療費の負担についても考慮する必要があります。
まとめ

変形性膝関節症の治療法として、人工関節置換術以外に骨切り術という選択肢があることを知っていただけたでしょうか。骨切り術はご自身の骨を残したまま、痛みを軽減し、より自然な動きを保つことができる治療法です。
メリットとしては、自分の骨を残せる、人工関節よりも可動域が広い、スポーツへの早期復帰が期待できる、そして将来人工関節置換術への移行も可能である点などがあげられます。
一方で、デメリットとして、術後の痛みや腫れ、合併症のリスク、リハビリ期間の長さ、費用負担などが挙げられます。
人工関節置換術と比較しながら、ご自身の年齢や生活スタイル、症状の進行具合などを考慮し、医師とじっくり相談することが大切です。どの治療法にもメリット・デメリットがあるため、納得のいくまで相談し、ご自身に合った治療法を選択しましょう。
参考文献
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-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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