膝の痛みの代表でもある変形性膝関節症は、加齢とともに罹患率が増加し、多くの人々を悩ませています。最新の研究では、変形性膝関節症の患者数は国内で2500万人以上とも言われており、国民病とも呼べるほど深刻な問題となっています。 この慢性的な痛みを、手術以外の方法で改善したいと考えている方も多いのではないでしょうか?
この記事では、変形性膝関節症に効果的とされる鍼灸治療について、そのメカニズムや費用、注意点までを分かりやすく解説します。
痛みの軽減、炎症の抑制、関節可動域の改善、自己治癒力の促進、そして血行促進効果など、鍼灸治療が持つ様々な可能性について、科学的な根拠に基づいてご紹介します。
手術に踏み切れない方、痛み止めでは効果が感じられない方、ぜひこの記事を読んで、鍼治療という選択肢について考えてみませんか?
目次
変形性膝関節症における鍼灸治療の効果とメカニズム

膝の痛み、つらいですよね。朝起きた時や歩き始めに膝がこわばる、といった症状に心当たりはありませんか? もしかしたら、変形性膝関節症の初期症状かもしれません。
変形性膝関節症は、膝関節の軟骨がすり減り、骨と骨が直接こすれ合うことで炎症や痛みが生じる病気です。加齢や肥満、激しい運動、遺伝などが原因となることが知られています。進行すると、膝の変形や歩行困難に至ることもあります。
手術をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。今回は、手術以外の治療法として近年注目されている鍼灸治療のそれぞれの効果と、その仕組みについて、中学生にも理解できるように、わかりやすくご説明します。
鍼灸治療が、あなたの膝の痛みに光を灯す一つの方法となるかもしれません。
鍼とお灸による痛みの軽減効果
まず針(はり)治療について、鍼治療は、変形性膝関節症の痛みを和らげる効果が期待できます。
膝の痛みは、炎症によって生じる物質や、神経が刺激されることで感じます。鍼灸治療は、これらの原因に働きかけることで痛みを軽減すると考えられています。
痛みを和らげる仕組みの一つとして、私たちの体の中で自然に作られる「モルヒネ」のような物質(内因性オピオイド)の増加が挙げられます。鍼を刺すことで、この物質の分泌が促進され、脳に伝わる痛みの信号が抑えられるのです。これは、痛み止めのお薬と似たようなメカニズムです。
また、鍼治療は、痛みを感じにくくする神経の働きを高める効果もあるとされています。まるで、脳に送られる痛みのメールに蓋をするようなイメージです。
一方でお灸ですが、お灸による温熱刺激により痛みを伝える神経の興奮を一時的に抑える効果があります。
これは「ゲートコントロール理論」と呼ばれるもので、別の刺激(この場合は熱)を与えることで痛みの信号が脳に伝わりにくくなります。
また膝周辺の血行が良くなることで、炎症物質の排出や栄養の供給が促進されます。特に冷えによる痛みの悪化がある患者さんには効果的なことがあります。
| 鍼灸の違い | 鍼治療 | お灸治療 |
|---|---|---|
| どんな治療? | 細い鍼を特定のツボに刺す治療法 | もぐさを燃やして温める治療法 |
| どんな感覚? | 軽い刺す感覚、ビリビリとした響き | じんわりとした温かさ、熱感 |
| 痛みへの効果 | 鋭い痛みや急性の痛みに効果的 | 冷えによる痛みや慢性的な痛みに効果的 |
| 膝関節症での主な効果 | ・痛みの即時的な緩和 ・関節周囲の筋肉の緊張をほぐす ・炎症を抑える | ・血行を良くする ・じんわり温めて痛みを和らげる ・こわばりを緩和する |
| 効果の現れ方 | 比較的早く効果を感じやすい | 徐々に効果が現れ、長続きしやすい |
| 向いている人 | ・ピンポイントの痛みがある人 ・早く効果を得たい人 | ・冷えを感じる人 ・じっくり温めたい人 |
東洋医学では「気・血・水」の流れを整えることで体の自然治癒力を高めると考えられています。
炎症の抑制効果
変形性膝関節症では、膝の関節に炎症が起こり、腫れや熱感を伴うことがあります。炎症は、体を守るための反応ですが、過剰な炎症は組織を傷つけ、痛みを増強させてしまいます。鍼治療は、この炎症を抑える効果も期待できます。
炎症は、免疫細胞から放出される炎症性サイトカインという物質が関わっています。鍼による治療は、この炎症性サイトカインの産生を抑え、炎症を鎮める物質の働きを促すことで、膝の炎症を改善すると考えられています。まるで、火事を消火するように、炎症を抑え込むのです。
研究によると、鍼治療によってTNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが減少し、抗炎症性サイトカインであるIL-10が増加することが報告されています。
関節可動域の改善効果
変形性膝関節症が進行すると、膝の曲げ伸ばしが難しくなり、日常生活にも支障をきたすことがあります。「正座ができない」「階段の上り下りがつらい」といった悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。鍼治療は、関節の動きをスムーズにする効果も期待できます。
鍼治療によって、硬くなった筋肉の緊張が和らぎ、血行が促進されます。これにより、関節周囲の組織の柔軟性が向上し、膝の動きが滑らかになると考えられています。まるで、錆びついた歯車が油を差すことでスムーズに回るようになるイメージです。
研究では、鍼治療を受けた方のWOMAC機能スコア(日常生活動作の評価)が改善したという報告があります。これは、鍼治療が日常生活動作の向上に役立つ可能性を示唆しています。
自己治癒力の促進
私たちの体には、本来、傷ついた組織を修復する力(自己治癒力)が備わっています。例えば、擦り傷が自然に治っていくのも自己治癒力のおかげです。鍼治療は、この自己治癒力を高める効果も期待できます。
鍼治療によって血行が促進されると、酸素や栄養が体の隅々まで運ばれやすくなります。また、老廃物もスムーズに排出されるようになります。これにより、傷ついた組織の修復が促進され、自己治癒力が向上すると考えられています。まるで、植物に水をやることで成長が促されるように、体の修復機能が活性化されるのです。
血液循環の改善
鍼治療は、膝周辺の血行を良くする効果があります。血行が良くなると、筋肉や関節への酸素供給が向上し、老廃物の排出も促進されます。また、炎症の原因となる物質も洗い流されるため、炎症や痛みが軽減されると考えられています。
鍼を刺入することで、局所的に血管が拡張し、血流が増加します。これは、一時的な反応ではなく、持続的な血流改善効果が期待できます。まるで、道路の渋滞が解消され、車がスムーズに流れるようになるイメージです。
血行が促進されると、膝関節周囲の組織への酸素供給が向上し、新陳代謝が活発になります。また、老廃物や炎症物質が運び去られることで、炎症や痛みが軽減されると考えられています。

鍼治療と運動療法の相乗効果
変形性膝関節症に対する鍼灸治療は、単独で行うよりも適切な運動療法と組み合わせることで、より大きな効果が得られることが私の臨床観察からわかってきました。
特に効果的なのは「鍼治療の直後に運動療法を行う」という順序です。鍼によって痛みが緩和された状態で運動を行うことで、より効果的な筋力強化や関節可動域の改善が可能になるのです。
60代の男性患者さんは膝の痛みで十分な運動ができずにいましたが、鍼治療直後に行う「痛みのない運動療法」というアプローチに変更したところ、3か月で大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)の筋力が明らかに向上しました。
東洋医学と西洋医学の治療法を単に併用するだけでなく、その順序にも注目することで、効果を最大化できると感じています。
変形性膝関節症の鍼灸治療を受ける際の注意点と費用

膝の痛みには手術という選択肢もありますが、今回は手術以外の治療法として注目されている鍼灸治療について、その注意点と費用を分かりやすくご説明します。
鍼灸治療を受ける際の不安や疑問を解消し、安心して治療を受けていただけるよう、一緒に見ていきましょう。
治療を受ける前の注意点(医師との相談、既往歴の確認など)
鍼治療は、体に鍼を刺入するという侵襲性のある医療行為です。そのため、安易に始めるのではなく、まずはかかりつけの医師に相談することが重要です。
変形性膝関節症の進行度合いは人それぞれです。軽度の方から、かなり進行している方まで様々です。また、他の病気にかかっている場合や、現在服用している薬がある場合、鍼治療との兼ね合いを医師に確認する必要があります。
例えば、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を服用している方は、鍼治療によって内出血のリスクが高まる可能性があります。医師は、あなたの現在の健康状態や治療状況を総合的に判断し、鍼治療が適切かどうかを判断してくれます。
鍼灸院を選ぶ際にも注意が必要です。鍼灸師は国家資格です。厚生労働大臣の免許を受けているかどうかを必ず確認しましょう。インターネットで調べたり、鍼灸院に直接問い合わせて確認することができます。治療経験の豊富さや、院内の衛生状態なども重要なポイントです。
治療中の注意点(体位、呼吸など)
いよいよ鍼灸治療が始まります。治療中は、鍼灸師の指示に従って、楽な姿勢を保ちましょう。深い呼吸をすることでリラックスできます。
鍼を刺す際にチクッとした痛みや、お灸による熱感を感じることもありますが、通常は我慢できないほどの痛みや熱さではありません。もし強い痛みや熱さに違和感を感じたら、すぐに鍼灸師に伝えましょう。
鍼灸師は、あなたの症状に合わせて適切なツボを選び、鍼を刺入していきます。
半月板は膝関節の安定性、荷重分散、潤滑に重要な役割を果たしており、変形性膝関節症の進行を抑制するためには半月板への負担を軽減することが重要です。鍼治療によって膝周辺の筋肉の緊張が和らぎ、関節への負担が軽減することで、変形性膝関節症の進行抑制効果が期待できると考えられています。
治療時間は症状や施術内容によって異なりますが、30分~1時間程度が一般的です。
治療後の注意点(安静、入浴など)
治療後は、激しい運動や長時間の入浴は避け、安静に過ごしましょう。
治療直後は、体が温まっているため、血行が促進され、内出血のリスクが高まる可能性があります。飲酒も控えることが望ましいです。アルコールは血管を拡張させるため、こちらも内出血のリスクを高める可能性があります。
治療の効果を持続させるためには、定期的に鍼灸治療を受けることが推奨されます。治療頻度や期間は、症状や体質によって異なりますので、鍼灸師と相談しながら決めていきましょう。
日常生活における膝への負担を減らす工夫も大切です。例えば、体重管理や適度な運動を心がけましょう。
▼変形性膝関節症の体重管理法については、以下もご参考ください。
鍼治療の費用と保険適用について
鍼治療の費用は、健康保険が適用される場合と適用されない場合があります。
変形性膝関節症に伴う痛みやしびれに対して鍼治療を行う場合は、医師の同意があれば保険適用となる可能性があります。
その他にも保険適用される条件としては以下です。
- 医師の同意書がある(「はり・きゅう同意書」)
- 以下の特定疾患が対象
・神経痛
・リウマチ
・頸腕症候群
・五十肩
・腰痛症
・頸椎捻挫後遺症(むちうち)など
保険適用となる場合は、1回あたり数百円~数千円程度で済みます。しかし、保険適用外の場合は、治療費は全額自己負担となり、1回あたり3,000円~10,000円程度が相場です。
鍼灸院によっては、初診料や再診料が別途かかる場合もありますので、事前に費用を確認しておきましょう。
鍼灸院の選び方(口コミ、資格、設備など)
鍼灸院を選ぶ際には、まず国家資格である「はり師」「きゅう師」の免許を取得している鍼灸師が施術を行う鍼灸院を必ず選びましょう。厚生労働省のホームページで免許の有無を確認することができます。
インターネット上の口コミや評判も参考になります。実際に治療を受けた方の声は、鍼灸院の雰囲気や治療効果を知る上で貴重な情報源となります。院内の清潔さや設備も重要なポイントです。鍼は使い捨てのものを使用しているか、衛生管理が徹底されているかどうかも確認しましょう。
変形性膝関節症の治療経験が豊富な鍼灸師がいるかどうかも確認しておくと安心です。経験豊富な鍼灸師は、症状に合わせた適切な治療を提供してくれる可能性が高いです。
鍼灸治療は、あなたの膝の痛みに寄り添う一つの選択肢となるかもしれません。信頼できる医師や鍼灸師と相談しながら、自分に合った治療法を見つけていきましょう。
まとめ

変形性膝関節症と鍼灸治療について、その効果やメカニズム、費用や注意点などを解説しました。鍼灸治療は、膝の痛みや炎症を和らげ、関節の動きをスムーズにする効果が期待できます。さらに、自己治癒力の促進や血行改善といった効果も報告されています。
鍼灸治療を受ける際は、医師との相談や鍼灸院選びが重要です。厚生労働大臣免許を受けた鍼灸師のいる、清潔で信頼できる鍼灸院を選びましょう。費用は保険適用される場合とされない場合があり、事前に確認が必要です。
鍼灸治療は、変形性膝関節症の痛みやつらさを軽減し、日常生活を快適にするための選択肢の一つとなるでしょう。不安や疑問があれば、医師や鍼灸師に相談し、安心して治療を受けてくださいね。
参考文献
- Spalding T, Damasena I, Lawton R. Meniscal Repair Techniques. Clinics in sports medicine 39, no. 1 (2020): 37-56.
- Tsokanos A, Livieratou E, Billis E, Tsekoura M, Tatsios P, Tsepis E, Fousekis K. The Efficacy of Manual Therapy in Patients with Knee Osteoarthritis: A Systematic Review. Medicina (Kaunas, Lithuania) 57, no. 7 (2021).

-情報提供医師
松本 美衣 Mie Matsumoto
和歌山県立医科大学 医学部 卒業
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